イノベーション創出に取り組むNTTデータ
約11万人を対象としたグローバルハッカソンとは?
2017年7月から11月にかけて、NTTデータが開催した「NTT DATA Hackathon Dream『NTT DATA Technology Foresight Challenge 2017』」は、全世界の社員11万人を対象としたグローバルハッカソン。
全世界から参加した各チームが「NTT DATA Technology Foresight」(※1)から注目するトレンドを取り上げ、それをテーマに、アイデアを発想しデモを作成。「イノベーション」「テクノロジー」「ビジネスインパクト」を評価観点に、アイデアの独創性とデモの完成度を競いました。
2017年7~9月に、各国で予選がおこなわれ、そこで勝ち抜いた14チーム54名が、2017年11月20日~21日、本選会場であるバルセロナのeveris社(以下:エヴェリス)オフィス(※2)に集結しました。
グローバルハッカソン本選の模様
グローバルハッカソンを開催するきっかけについて、企画・責任者である、技術革新統括本部長の木谷強(きたに・つよし)に話を聞きました。
NTTデータが取り組むイノベーション創出とは?
バルセロナでのオープニングセレモニーで今回のテーマについて語る 技術革新統括本部長の木谷強
───まず、グローバルハッカソンプロジェクトをスタートしたきっかけを教えてください。
ハッカソン自体は世の中でも随分広まって、NTTデータグループでも各国・地域で実施しています。NTTデータ全体で一度ハッカソンを実施することで、社員のイノベーションに対する考え方を強め、イノベーションを起こしていこうという文化を作るためにはじめました。
───NTT DATA Technology Foresightをテーマとしている狙いはどのようなものですか。
NTT DATA Technology Foresightは、毎年発表している指標です。今起こっていることや、これから起こると予想したことをもとに、発表年から5年後のビジネスに貢献する技術を「トレンド」として制作しています。今回のハッカソンは、トレンドをベースとしてアイデアを考えてもらい、各チームが設定したテーマに沿ってNTT DATA Technology Foresightの技術を使った新しいイノベーションを起こす枠組みにしました。
───日本予選では16チームのプレゼンがありましたが、どのような点を重要視されているのでしょうか。
私はもちろん、「イノベーション」という点を重視しているのですが、今回はハッカソンなので、新しい技術を使って、「モノ作りをする」ということを特に重要視しています。日本から本選に参加した2チームもかなりデモとしてアイデアを作りこんできたチームだと評価しています。
残念ながら本選に進めなかったチームの中でも、特に世の中にあるAIのエンジンをうまく活用しながら新しいことをやっているチームが印象に残っていますね。
INFORIUM豊洲イノベーションセンターで行われた日本予選の様子。16チーム58名が参加し、2チームが本選出場を決めた
───本選には、日本を含む海外9拠点から参加者が集まりましたが、参加者に期待することを教えて下さい。
ハッカソンは、アイデアを考えて、実際にモノを作って、人に見せる、というイノベーションを生み出すためのプロセスを、短い期間で実践できる機会です。こういった経験を実際の事業に使ってもらいたいなと思いますし、新しい技術に常に触れている暮らし方を提供してもらいたいなと思います。
───今後NTTデータとしてオープンイノベーションをどのように行っていきたいですか。
NTTデータだけに限った話ではないですが、お客様のビジネスが急速に進化するなか、一つの会社だけで、モノを作ったり、新しいサービスを作ったりできなくなってきているのは明らかです。今まで私たちNTTデータが一緒に仕事をさせていただいていたベンダーさんはもちろん重要ですが、スタートアップやベンチャー企業の色々なアイデアや技術をうまく巻き込んでいくということが大切になってきています。
今回のような、ハッカソンを活用してオープンイノベーションを進めていくということは重要なことですし、NTTデータ全体でオープンイノベーションのマインドを醸成し、実行していくことが重要だと考えています。
日本の社会課題をグローバルなモデル事業の種に
日本の予選で優勝と準優勝を勝ちとり、本選出場となったのは以下の2チームです。
【優勝:小間洋和さん、岡田哲明さん】
高齢者のための学習支援に机とプロジェクターを利用する「Mana viva」を提案。NTT DATA Technology Foresight 2017のトレンドより「超臨場チャネルの獲得」をアイデアのベースとしています。
優勝チームの小間洋和さん(左)と岡田哲明さん(右)
【準優勝:金井克治さん、礒本圭介さん、小堀一雄さん、松本淳史さん】
プレゼンしたアイデアは、ホテルやコンビニ弁当など、あらゆるものの価格をリアルタイムで設定する「ダイナミックプライシングエンジン」。NTT DATA Technology Foresight 2017のトレンドより「人工頭脳の浸透」をアイデアのベースとしています。
準優勝チーム。左から、金井克治さん、礒本圭介さん、小堀一雄さん、松本淳史さん
「Mana viva」を提案した小間さんと岡田さんに予選通過の感想などを伺いました。
───予選通過おめでとうございます。今回、グローバルハッカソンに参加したきっかけを教えてください
(岡田) 二人でお昼を食べに食堂へ行ったとき、テーブルに貼ってあった「グローバルハッカソン募集中」と書いてある案内に目が留ました。8月18日の締め切り直前だったのですが、同期であるこの2人で出場すれば、面白いものができるのではと、思い切って応募しました。
(小間) 8月初旬に始めたアイデア出しから結構苦労しました。2人で深夜3時くらいまでチャットでいろんなアイデアを出し合い、取り下げたり改善したり、を繰り返していたら予選会間近になってしまったのですが、そこから急ピッチで実装させて予選に間に合わせました。
(岡田) 結局、発表の4、5日前までアイデアを練っていました。
───どういったアイデアを提案したのか、改めて教えてください。
(岡田) 私たちが開発したのは、高齢者の生涯学習を助ける学習支援デスクです。タッチプロジェクターを使って、生徒の机と先生の机をリアルタイムに同期させます。タッチプロジェクターはテーブルにポンと置くだけで、デスク上に色んな映像を投影することができ、かつ、赤外線センサによって、タッチができるものです。
(小間) そうすることで、外に出たり、教室に行って学習することが難しい高齢者でも、自宅や施設などで先生の指導を受けられ、ずっと生涯学習し続けることができる、というシステムです。例えば、自宅や施設にいる方は閉塞的な空間にいますけれども、使い慣れているデスクにポンと置くだけで、先生が書いた文字が見えて、隣に先生がいるようなコミュニケーションができるものです。
───日本予選で優勝しましたが、本選のバルセロナに向けて、次に追求していく課題はありますか
(小間) 私たちがプレゼンしたのは、タッチプロジェクターを通すことで、遠隔にいる先生の習字の指導を受けられるというデモです。音声を認識し、わかりにくい言葉をイラストにして表示させるAIも独自実装しています。
予選後に、この方法では平面上でのアクティブに限られるのではないか、というご指摘を審査員の方から頂きました。それを課題にし、陶芸や編み物、手芸など、立体的な活動になった場合のリアルタイム同期の方法に、今後取り組みたいと思っているところです。
───本選のバルセロナに向けての意気込みを教えてください。
(岡田) 今回、私たちは高齢者をテーマにしています。それは、日本が超高齢社会で、それは今後さらに進む、という社会課題に対し、明るい未来を見せたいという想いからです。先進国で高齢化は進んでいて、その中でも日本はトップを走っています。高齢化に向けた事業のモデルケースとなるアイデアをスペインで見せられたらいいなと思っています。
NTTデータが政治・経済・社会・技術の4つの観点からITの変化を捉え、「情報社会トレンド(近未来の展望)」と「技術トレンド」を毎年策定しているトレンド情報のこと。 http://www.nttdata.com/jp/ja/insights/foresight/sp/index.html
NTTデータのスペイン子会社であるeverisグループ(本社:スペイン・マドリッド、president:Fernando Francés)。https://www.everis.com/
「One NTT DATA」ひとつの目標に向かって
社員たちの想い
本選では、「NTT DATA Technology Foresight」をベースに練ったアイデアをさらにブラッシュアップさせました。各チームに対し、審査員のコメントを反映したチャレンジが課され、このチャレンジを29時間のハック中にアイデアへ組み込んでいきました。
これは、アイデアをサービス提供のレベルへと昇華させるためであり、チャレンジをアイデアに組み込めたかという点も、審査の評価観点に加えられました。
NTTデータのグループ会社、everis(バルセロナ)のオフィスはグローバルハッカソンの会場に一変。参加者の奥には、ハック時間をカウントするタイムボードが設置された
●1日目10:00
グローバルハッカソンのオープニング。参加者が続々と集まり、自己紹介や雑談をする様子が伺えました。
各チームにチャレンジが課された後には、達成のためにチームメンバーと話し合いながら進め方を相談する参加者がいる一方で、チームの垣根を越えてアイデアを紹介しあったり、意見交換したりする姿も見られました。
オープニング前の参加者たちの様子
●1日目20:00
各国社員たちの取り組む様子はさまざまでした。黙々とコーディングするチームや、ブラッシュアップのために出し合ったアイデアを優先付けし、話し合いながら進めていくチーム。
1日目の終盤ともなると、笑顔も見られた日中帯とは打って変わり、システムが思い通りに動かずに煮詰まっているチームや、夜遅くまで取り組むチームの姿も見られました。
翌日のプレゼンテーションに向けた意気込みやモチベーションを、いくつかのチームに聞きました。
インタビューに協力してくれた参加者たち
「ハッカソンは今まで色々な地域や場所で行われてきていますが、各チームがこうして一箇所に集まることが私たち全員にエネルギーを与えてくれるし、One NTT DATA ファミリーだということを感じさせてくれたと思います」(NTT DATA UK)
「世界にいる社員と一同に会する場で、立場も仕事も関係なく交流できる場というのは、とても貴重で色々な刺激を受けています。本当の意味でのグローバル化を促進することができる、すばらしい機会だと思います」(日本)
「このイベントに備え長い間準備をしてきました。私たちの提案が実現すれば、生活や時間が好きなように使えるようになります。私たちのプレゼンテーションがNo1になると確信しています」(NTT DATA Services)
「新たなイノベーションを見つけ出すためだけではなく、私たちがどのように意思を伝えあい、イノベーションを生み出し、未来を予見できるように自らを向上させられるか、考える機会にもなると思っています」(NTT DATA Indonesia)
いよいよプレゼンテーションへ
●2日目10:00
2日目の朝。15時に行われるプレゼンテーションに向け、デモンストレーションやプレゼンテーションの最終確認が行われました。残り少ない時間に、各チームとも緊迫した様子です。
残り時間もわずか。タイムアップ間近まで作業が続いた
●2日目15:00
最終プレゼンテーションでは、1チームにつき、10分でアイデアを説明し、デモンストレーションを行ったのち、審査員からの質疑応答が行われました。
自分たちのアイデアを熱く語る姿から「自分達がイノベーションを起こすのだ」という強い意気込みが伝わってきました。
AI・IoT・ブロックチェーンなど、先進技術のエキスパートが審査員として講評
AI、IoT、ブロックチェーン、ドローンなどNTT DATA Technology Foresightの技術トレンドをもとにしたアイデアが多くみられました。テーマは、自動運転、農業、医療、教育、EC、サプライチェーンなど、さまざまでした。
熱気を帯びたプレゼンも終了し、出場14チームのうち優勝に輝いたのは、ドイツから出場した、itelligenceの「Farmbot」。食料を消費者に適切な配分をもたらすサプライチェーンの提案に対し、審査員は「イノベーションという観点での社会課題に対して取り組んでいる点や、先進的な技術の取り込み方、デモンストレーションでの見せ方など、とてもバランスがよかった」と講評しました。
優勝に輝いたitelligence(ドイツ)の「Farmbot」。農業データを収集し、クラウド上にプラットフォームを構築。生産、収穫、管理などの取引はブロックチェーンを活用した、未来の農業プラットフォームを提案
優勝したitelligenceのFarmbotチーム
Farmbotのメンバーは、海外グループ会社の技術リーダー(CTO)が集まる会合で講演する予定で、今回のアイデアのPoC適用範囲を広げられるよう、技術革新統括本部と一緒にビジネス検討に向けた取り組みを実施予定です。
NTTデータの約11万人の社員を対象に行われたグローバルハッカソンで優勝した感想を、チームメンバーはこう語りました。
「私たちのアイデアは良いものだという自信はありましたが、まさか優勝できるとは思っていませんでした。チームメンバーがプロトタイプ開発に取り組む様子は驚くほどすばらしいものでした。Farmbotを製作できたことも、バルセロナで得られた成果も、最高に素晴らしいチームワークのおかげだと思っています」
アイデアを積み上げてNTTデータの力に
最後に、NTTデータ 技術革新統括本部 技術開発本部長の風間に話を聞きました。
───全てのチームのプレゼンテーションを終えて、全体を通しての感想を教えてください。
今回の評価の観点は「イノベーション」「テクノロジー」「ビジネスインパクト」の3つですが、これまでのアイデアソンと比べて、全体的にイノベーションをメインにした取り組みが多かった印象です。アイデアを十分に形にするまでは到達できなかったチームも多いと思いますが、そこが次への改良点でもあり、今後に繋げていけるポイントだと思います。
───日本だけで開催されるハッカソンと今回のハッカソンでは、どういった違いがあるのでしょうか。
イベントに対する熱量が明らかに違いました。チームTシャツを着ていたり、自分達のチーム名を決めてエンブレムを持ち込むなどして制作環境も自分たちでどんどん変えていて、意識的に気持ちをイベントに向ける工夫が根付いている感じがしました。日本も参考にできるのではないかなと思います。
───今後、グローバルハッカソンをどのように発展させていきたいですか。
NTTデータのイノベーションの文化や、「力」にしていかなければいけないと思っています。そのためには、この取り組みを継続することが重要で、根付かせる必要があると思います。また、生み出されるもの(アイデア)を積み上げていくことが重要です。単なるイベントで終わるのではなくて、アイデアを形にしたものが積み重なって、それが、グローバルに共有できるという環境作りができると、まさにハッカソンの意味に繋がるのではないかと期待しています。
2012年から発表し始めたNTT DATA Technology Foresightは、日本発信の形から徐々に、海外社員と一緒に考えて作っていく体制に変わってきています。
NTTデータはこれからも、今回のグローバルハッカソンのみならず、創出したアイデアの積み上げやNTT DATA Technology Foresightを始めとした連携により、グローバル企業としてお客様と一緒にイノベーションを生み出していきます。