東京海上日動火災保険様

世界8カ国、海外の関係者を巻き込んだ、外航貨物保険における保険金請求へのブロックチェーン技術適用に関する実証実験に成功!

リーフレット(PDF:2.7MB)

東京海上日動火災保険では、NTTデータの協力のもと、外航貨物保険における保険金請求業務にブロックチェーン技術を適用する実証実験を2017年11月から2018年8月にかけて実施。世界8カ国というグローバルなフィールドで行われた国際的にも先駆的なこの取り組みを通じて、保険金支払いが大幅に迅速化できるなど、さまざまな課題解決への有効性が確認できた。その成功の裏には両社の緊密な協力体制があった。

お客様の課題

  • 外航貨物保険の保険金支払いまでに最大1カ月以上の時間が必要
  • 保険金支払いに必要な書類の用意や提出にかかる業務が煩雑

導入効果

  • ブロックチェーンの活用により保険金支払いまでの時間が1週間程度まで短縮可能に
  • 必要書類をデジタル化しブロックチェーンで共有することで保険金支払いに関する業務が削減できた

本稿に登場するサービス

外航貨物保険・保険金支払い実証実験

この実験では、事故報告書や貨物の損傷写真、Invoiceなどの実際の保険金支払い業務で利用したデータをブロックチェーン上に流通させることで、欧州、米州、アジアの計8拠点の海外クレーム代理店ならびに鑑定会社へ速やかにデータが共有され、保険金の支払いプロセスに利用できるかを検証した。

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ケーススタディ

導入の背景と課題

なぜ外航貨物保険でブロックチェーンなのか?

万一の事故や災害に備えて、予測される事故発生の確率に見合った一定の保険料を加入者が公平に分担しながらお互いに助け合うという、相互扶助の精神から生まれた制度が、私たちの生活にも馴染み深い「保険」だ。損害保険業界のリーディングカンパニーである東京海上日動火災保険は、顧客の信頼をあらゆる事業活動の原点におきながら、保険事業を軸とした顧客への「安心と安全」の提供に注力している。

豊かで快適な社会生活と経済の発展に貢献することを経営理念に掲げ、その実現に向け日々取り組む同社では、最新デジタルテクノロジーの業務やサービスへの活用も積極的に進めてきている。そうした展開のひとつが、2017年10月31日から2018年8月にかけてNTTデータと共に実施した、外航貨物保険における保険金請求業務へのブロックチェーン技術適用の実証実験である。海外の保険金支払いにおける関係者を巻き込んだ今回の実証実験は、日本において初めての試みであり、国際的にも先駆的な取り組みだ。

今回の実証実験の背景として、特に海外で発生した事故などの際、外航貨物保険では必要となる紙の書類が多いこと、デジタル化があまり進んでいないことが挙げられる。外航貨物保険における保険金請求では、必ずしも契約した保険会社が直接、保険金支払い業務を行うわけではない。とりわけ海外では、輸入者が現地で事故通知から保険金の受領まで行えるよう、保険会社が提携する海外損害サービス代理店が保険金支払いの手続きを行っている。通常、海外のクレーム代理店が保険金の支払い手続きを実施する際には、紙やPDFファイル等で存在している事故報告書や貨物の損傷写真、Invoice(商業送り状)等の貿易関連書類、保険証券を収集する必要がある。そのうえで、保険会社に補償内容をメール等で確認しなければならないのだ。また、海外クレーム代理店と鑑定会社との間で、事故の内容等に関する情報共有も必要となる。

東京海上日動火災保険 コマーシャル損害部 次長 兼 国際物流第二グループ グループリーダー・板橋 孝幸 氏は、「このような状況から、世界中に点在する取引に関連する貿易関連書類と最新の保険証券の収集、関係者との情報共有を、海外クレーム代理店がいかにスピーディかつ正確に実施できるかが、迅速な保険金支払い手続きを実現するうえでの課題となっているのです。そのためデジタル化による課題解決を検討したところ、データの耐改ざん性を確保した状態でネットワーク参加者間での情報共有が可能な分散ネットワーク技術である『ブロックチェーン』に着目しました」と説明する。

板橋 孝幸 氏

東京海上日動火災保険
コマーシャル損害部 次長
兼 国際物流第二グループ
グループリーダー
板橋 孝幸 氏

同社において法人顧客を対象とする部門であるコマーシャル損害部では、事故が生じた際に保険金を支払う部門として海外子会社や代理店網を有しており、それらと連携しながら全世界の保険金の支払い業務に対応する。

東京海上日動火災保険では、保険の「入口」に当たる申し込みに関わる手続きにおいて、2016年から2017年にかけてNTTデータとブロックチェーンを活用した実証実験を行っており、一定の成果が確認できていた。そこで今回は「出口」に該当する保険金の支払いサービスへのブロックチェーン活用となるわけだが、ここでもパートナーとしてNTTデータを選定することとなった。

「ブロックチェーンは今後の競争優位のカギを握る技術のひとつだと見ています。本取り組みにおいて、日本が世界の中で一定の主導権を握っていくためにも、国内のさまざまな業界の主要企業との協力体制を持ち、ブロックチェーンに関する技術力と実行力を兼ね備えたNTTデータさんとWin-Winで取り組んでいくべきだと考えました」と、板橋氏は強調する。

導入の流れ

プロジェクトの始まりは「ブロックチェーンって何?」

2017年10月31日にスタートした実証実験では、事故報告書や貨物の損傷写真、Invoiceなどといった実際の保険金支払い業務で利用したデータを、ブロックチェーン上に流通させることによる情報共有のリアルタイム化、コスト削減効果や支払い対応の迅速化を検証した。ブロックチェーンを通じたデータの共有は、保険会社である東京海上日動火災保険と、欧州、米州、アジアの計8カ国8拠点の海外クレーム代理店や鑑定会社との間で行われた。また今回の実験では、貨物の損傷写真をはじめとした、文字以外の情報についても、リアルタイムに共有できる仕組みについて技術検証が進められた。

国際物流第二グループ 課長代理・原賀 勇樹 氏は、「一般的にブロックチェーンは画像などの大容量データを扱うのが苦手とされていますが、今回の実証実験では貨物の損傷写真やサーベイレポート(鑑定結果の報告書)などの大容量データであっても、ブロックチェーン上で円滑に参加者間での共有ができることが確認できました」と話す。 実験のスキームは、NTTデータとの綿密な打ち合わせを頻繁に繰り返しながら固められていった。

原賀 勇樹 氏

東京海上日動火災保険
コマーシャル損害部
国際物流第二グループ
課長代理
原賀 勇樹 氏

「正直、我々も当初は『ブロックチェーンって何?』というレベルでしたが、NTTデータさんにはそうした技術面を万全にサポートいただけましたし、さらに『入口』での実証実験の経験もあったことなどから複雑な外航貨物保険業務についても精通しており、我々の『専門用語』を使用してコミュニケーションがとれたので、非常にスムーズに実験を進めることができたと実感しています」(原賀氏)

今回は世界8カ国で実証実験を実施したが、操作性に関する問題等がまったく上がってこなかったことに原賀氏は大いに驚いたという。

「これまで新しいシステムを導入すると、現場から従来オペレーションからの変更要素に対する操作性、利便性への疑問や厳しい意見があったりするのが普通でしたが、ブロックチェーンという新技術を用いてシステムを構築したにも関わらず、拍子抜けするほどスムーズに利用してもらえました」と原賀氏。

板橋氏も笑顔でこう続ける。「これまでなかったものをゼロからつくりあげなければならないので、これまで我々が当たり前と思ってやってきたことをどう変えるべきかなどもNTTデータさんに相談しました。我々のやりたいことを新たな仕組みとして形成する際に、エンジニアだけではなく、営業担当者も毎回ミーティングに参加してくれて、プロジェクトチーム一体となって議論できたのも大きかったですね。また、ブロックチェーンは技術トレンドの移り変わりも激しく、実験期間中にもトレンドの変化があったのですが、NTTデータさんはタイムリーに最適なアップデートを提案してくれました」

こうして今年夏の実験終了までに、当初期待していたさまざまな効果が確認できた。

まず被保険者(荷主等)にとっては、保険金請求に必要な書類の用意や、提出にかかる業務の削減、そして保険金支払いの迅速化が確認できている。

「保険金のお支払いについては、最大1カ月超かかっていたのが1週間程度までと、大幅に短縮可能であることが確認できました。お客様にとっても大きなメリットをもたらすものと期待しています」(原賀氏)

また保険会社にとっては、海外クレーム代理店への情報共有業務の削減が可能となった。そして海外クレーム代理店については、保険金請求に必要な書類の案内や取り付けにかかる業務の削減をはじめ、保険会社に保険の契約内容を確認する業務において、時差により確認作業が遅延する等の影響の極小化、鑑定会社への情報を連携する業務の削減、保険情報を含む必要情報の即時入手による保険金支払いの迅速化などが確認できている。最後の鑑定会社に関しては、早期の書類取り付けによる鑑定作業の迅速化や保険の契約内容の即時入手による鑑定作業の品質向上を図れることがわかった。

導入効果と今後の展望

次々に新技術が生まれるからこそ重要となるパートナーの存在

実証実験を通じて、外航貨物保険の保険金請求プロセスにブロックチェーン技術を適用することの有効性が確認できたことを受けて、東京海上日動火災保険では引き続きNTTデータとタッグを組みながら、今回得られた課題への対応を継続して検討しつつ、2019年度中の一部実用化を目指して取り組んでいく構えだ。

「ブロックチェーンは次々と新技術が登場してくることを今回の実証実験で痛感しましたので、ノウハウの蓄積があるNTTデータさんがパートナーであることは心強いですね。実用化に向けても同社には、最新動向の共有や最適なアップデート提案などを期待しています」と、未来を見据えて板橋氏は力強く語った。

お客様プロフィール

お客様名

東京海上日動火災保険株式会社

所在地

東京都千代田区丸の内1-2-1

設立

1879年(明治12年)8月

概要

1879年8月1日、日本初の保険会社として設立。2004年10月1日、東京海上と日動火災の両社が合併し、東京海上日動となり、創業から130年以上にわたって業界のリーディングカンパニーとして活動を続けている。