医療現場を支えるNTTデータのAI画像診断支援ソリューション

AI画像診断支援ソリューションを用いて、CT画像等の膨大な医療画像を自動的に診断し異常を検知。
放射線科医の負担軽減に寄与。

CT、MRIなどで撮影した医療画像を用いた診断ニーズは近年ますます高まっている。ところが日本を含む世界の医療現場では、機器の普及が進んでいるにもかかわらず、画像診断のスペシャリストとしての放射線科医が不足している現状がある。このため、地域によっては高度な画像診断を速やかに提供することが難しく、社会的な課題となっている。また、最近では画像診断装置の高機能化により、1回のスキャンで撮影できる画像数が飛躍的に増え、放射線科医による診断作業負担が増大するという課題も浮上している。

一方で、画像診断は癌や心疾患、脳血管疾患など重大な疾病の早期発見にきわめて有効であり、予防医療の拡充になくてはならない診断方法である。従って装置による撮影から診断に至るワークフローの効率化を図り、放射線科医による質の高い画像診断を支援できるAIソリューションを構築し、医療現場に浸透させていくことの意義は非常に大きい。

お客様の課題

  • CTやMRIなど画像診断装置の性能向上に伴い、放射線科医は1回の診断で数千枚にも及ぶ画像を注意深く診断しなければならず、患者ごとの診断レポート作成にかかる時間的な負担が増大している
  • 数千万の画像から異常を確実に検知することが求められている

導入効果

  • 腎臓の異常検出を行う実証実験を実施、異常を高い精度で検出することが確認された。今後の継続的な改良により、放射線科医の診断にかかる負担を更に軽減し、質の高い画像診断を支援する効果が期待される
  • 癌に限定することなく様々な異常の検出が可能なため、人為的なミスによる病変の見落としを防ぐ効果が高い

AI画像診断支援ソリューション

患者の医用画像をAI技術で分析し、疾患の可能性がある個所を診断に使われるPACSシステムの画面上で示すことで医師の的確な診断をサポートする。既存の診断プロセスで使うインターフェースをそのまま生かして、AIの診断支援情報を提供することで、医師がスムーズにAIと協業することが期待できる。

特長

  • 特定の疾病だけでなく臓器の様々な異常を検出できる
  • CTメーカーの違いや造影剤の有無などCT撮影の条件に依拠しない
  • 病院の既存システムやワークフローを大きく変えることなく導入できる

これらのことから、緊急性の高い症状に対する迅速・正確な画像診断に加えて、健康診断をはじめとする予防医療の場においても放射線科医の負担軽減および診断支援が期待できる。

AI画像診断支援ソリューション画面例

導入の背景と課題

放射線科医による診断を支援する仕組みが求められていた

近年、宮崎大学医学部附属病院では、診療科を問わず画像診断による検査件数が急増しており、また、画像診断装置の進化によって1回の検査で撮影する画像も以前に比べて大幅に増加していた。

「CTで撮影した画像を立体感のある三次元画像などに見やすく再構成しますので、私たち放射線科医が診断すべき画像データは膨大なものとなります。このため患者様一人あたりの画像診断レポート作成にかける医師の時間的負担は、以前より格段に増えたと感じています」と語るのは、放射線科の東 美菜子医師だ。

こうした画像診断の実態からは、ヒューマンエラーによって病変を見落とす潜在的なリスクが示唆される。また、放射線科医は、検査の主目的以外にも撮影画像に何らかの病変が認められれば速やかに発見し、その性質や種類を特定するという責任も担っている。

「AIを活用することで、万一の見落としを未然に防ぎ、より幅広い視点で画像から病変を検出できる仕組みが構築できないだろうか、と日頃から考えていました」。このような東医師の構想に沿って、同病院では先端的なデジタル技術を活用することによる画像診断支援の可能性を模索していた。

東 美菜子医師
宮崎大学医学部附属病院

選定ポイント

病院の実態に合わせてきめ細かくソリューションを改良していく

もともとNTTデータでは、米国の患者の医用画像データベースを活用し、AIによる画像認識技術を用いて臓器の異常を検出するアルゴリズムを構築、医療機関での実証実験を通じてAI画像診断ソリューションの原型となるプロダクトを完成させていた。

「そのような時期にNTTデータさんと話し合う機会がありました。議論を重ねる中で、当病院の患者様のニーズや医師のワークフローに合わせてAI画像診断ソリューションをカスタマイズできそうだとの確信が得られ、共同開発を決意しました。多くのベンダや研究者がAI画像診断に取り組んでいますが、NTTデータさんのAIは特に医師の診断効率化を目的にデザインされていることが特徴的であり、実用化に向けた取り組みをできるという期待を抱かせてくれました。そして2019年3月、米国、インドに続いて日本人の患者様にも適用できるかを確認するため、まずは腎臓を対象とするAI画像診断の実証実験をスタートしました」と、東医師はプロジェクトの出発点を振り返る。

宮崎大学の研究におけるAIは、NTTデータの米国のグループ会社であるNTT DATA Servicesの協力のもと、アメリカの約5,000人の患者のCT画像を使って多様な腎臓疾患の病態の特徴を学習させている。つまり、異常を検出する際に米国人患者のデータをもとに学習したアルゴリズムで診断を行う。そこでまず、このAIで宮崎大学医学部附属病院の日本人患者の腎臓をCTで検査・診断し、米国での実証実験と同等の精度で異常を自動検出できるか検証。さらに、同病院で様々なステージの腎癌を治療する患者にCT検査を実施し、対象とする病態が「癌である」と検出できる精度の検証も試みた。

プロジェクトの内容

医療とITのプロフェッショナルが、リソースを駆使してグローバルに連携

宮崎大学

検証用に匿名化された画像データを提供。AIの結果解釈における医学知見の提供共同研究

NTTデータ

AIアルゴリズムの開発/検証、プロジェクト全体の統括と推進

NTT DATA Services

米国の自社医用画像アーカイブからAI学習データを提供

MD.ai社

医用画像に診断情報を付与する技術の提供

NTTデータからは、ヘルスケアAIソリューション開発の専門チームがアルゴリズム開発に参画している。アルゴリズム設計のリーダー、ブヌ ダリア社員は、画像診断支援ソリューションの要件を定義するにあたり、一つの疾患検出に特化するのではなく、「人体に起こりうる全ての疾患をカバーすること」を最終的なゴールに設定した。世界の画像診断分野におけるAI技術の活用に目を向けると、現状では特定の臓器・特定の疾患の診断にソリューションが限定される傾向がある。しかし医師が画像診断を行う際には、一つの疾患の判断をするということはなく、画像にうつっているあらゆる問題を発見し、診断する必要がある。そのため、特定疾患AIソリューションは見逃し防止には役に立つが、診断の効率化、短縮化には貢献できないという課題があると考えたからだ。また、放射線科医が現状のワークフローを大きく変えなくてもAIによる画像診断が活用できることも重視した。NTTデータのAIソリューションは、独自の新しいインターフェースではなく、すでに画像診断でつかわれているPACSと呼ばれるシステム上に結果を提示する。病院の既存システムや医師のワークフローにスムーズに統合できる柔軟性の高いソリューションを目指したのである。

開発プロジェクト推進にあたっては、学習データの提供を米国子会社であるNTT DATA Servicesが担当し、190億枚を超える医用画像を格納する同社のクラウド型アーカイブUnified Clinical Archive(UCA)から、幅広い病態のCT画像を網羅的に選定してAIに学習させることで、異常検出の精度を高めた。実証実験の進展に伴って、米国、インド、日本の患者のCT画像をAIの学習データとして順次蓄積している。

また、医用画像に診断情報を付与する独自の技術を持つ米国のスタートアップ企業、MD.ai社とも連携している。同社の創設者でありWeill Cornell Medical Collegeの准教授であるGeorge Shih医師は、「AIを活用したソリューションは、今後世界の様々な医療現場で患者様の治療に役立てられる可能性があります。医療AIがさらなる発展を遂げていくためには、産学連携で情報交換を重ね、コンセンサスを形成していくことが重要になります」と未来を見据えた課題について語っている。

NTTデータ 技術革新統括本部
ブヌ ダリア アントニア

導入効果・今後の展開

異常の検出から、病変の性質や病名まで特定できるソリューションへ

宮崎大学医学部附属病院での約6カ月にわたる実証実験の結果を受け、東医師は「日本の患者様の画像診断でも、AIが予想以上の精度で腎臓の様々な異常を検出しており、今後に期待が持てると感じました」と肯定的な見解を述べている。腎癌、腎臓結石、水腎症などの疾病から、嚢胞や良性腫瘍に至るまでの様々な異常を、米国人の患者を対象とした実証実験と同等の精度で検出できることが実証された。一連の結果から、AI画像診断支援ソリューションは人種や生活環境の異なる複数の国や地域の患者に適用できることが確認されたといえる。

また、腎臓における癌の診断精度についても、全体の正解率は89.00%という水準に達している。見逃しの少ないことを示す「感度」は82.00%、健康な人を誤って癌と判定することの低さを示す「特異度」は95.00%、癌と判定した人が真に癌であった確率を示す「適合率」は94.60%という結果が得られ、診断精度の高さが確認されている。

東医師はプロジェクトの展望を次のように語る。「現時点におけるAI画像診断は基本的には “異常があることを検出する”レベルに止まっていますが、今後の目標として、画像から病変の性質や種類、広がりの程度までをきめ細かく見分けられるようにしていきたいですね。AIによって病名を特定することが可能になれば、患者様にとって早期発見という意味でより有益であり、放射線科医の診断負担を大きく軽減できます。また、見落としリスクの軽減にもつながると思います」。

例えば、画像診断の段階で腫瘍の良性・悪性などの性質が予測できれば、放射線科医が主治医に術前情報として伝えることで、患者への適切な説明や手術アプローチの決定、質の高い術後フォローが可能となる。「最終的には、全身検査に対応できるAI画像診断を目指したい。これが実現すれば、AIと協力しながら医師がより迅速・的確な診断が下せるようになり、急性期の医療と予防医療の両面で患者様のためになる医療サービスが提供できると考えています」(東医師)。

今後も継続して、NTTデータは宮崎大学医学部附属病院と密接に連携し、AI画像診断支援ソリューションの商用化に向けた改良を積み重ねていく。すでに実証実験は第二ステージを迎え、検出した異常から病名を特定するアルゴリズムの開発・検証をスタートしている。さらに2020年度中をめどに、院内の医師の画像診断における業務負担を実際にどれほど削減できるのかといった効果検証にも着手する計画である。

お客様プロフィール

お客様名

国立大学法人宮崎大学(医学部附属病院)

所在地

宮崎県宮崎市清武町木原5200

開設

1977年10月31日 宮崎医科大学医学部附属病院として開院

病院概要

9の診療科を持ち、総病床数632を有する宮崎県における中核的医療機関。地域の医療機関と連携し、高度医療の実践と優れた医療人材の養成に取り組む