特別対談:Foresightを起点に、正しいゲームに勝つ ~現代ビジネスのディスラプションを、顧客価値とエコシステムで解く~

Foresightを起点としたコンサルティングを通じた価値提供とは

これからの企業は変化を後追いするのではなく、テクノロジーがもたらす経済の構造変化を予測し、自ら自社の未来像(Foresight)を描き、事業と組織を変革していかなければなりません。
NTTデータのコンサルティングはForesightの構想から、それに基づく事業変革、さらに必要な組織能力の変革まで、エンドツーエンドで伴走し、お客さまと共に新しい未来を実現します。
コンサルティングサービスを率いるNTTデータ副社長の山口が、デジタル時代の新たな事業戦略を提唱するロン・アドナー氏との対話を通じて、デジタル変革を成功させるための要諦を探ります。

ダートマス大学タックビジネススクール教授のロン・アドナー氏は、著書『WINNING THE RIGHT GAME(邦題:エコシステム・ディスラプション)』において、「現代のビジネス界におけるディスラプション(破壊)は、製品やサービスのイノベーションによってもたらされるのではなく、エコシステムによってもたらされる」と説いている。さらに、これを理解せず“誤ったゲーム”に取り組むことは、敗北を意味すると警笛を鳴らす。では、デジタル時代に「正しいゲームに勝つ」とはどういうことなのか。NTTデータ副社長の山口重樹が、アドナー氏に話を聞いた。

目次

1.正しいゲームに勝つとは

山口私たちはお客様のデジタル変革をご支援しています。そのような中で、誤ったデジタル変革は企業の生存を危うくするという内容のアドナーさんの著書『WINNING THE RIGHT GAME』を拝読し、感銘を受けました。本日は、お話をうかがえることを楽しみにしております。

同著で取り上げられているのがコダック社の事例ですが、一般的に倒産の原因は、既存のフィルムからデジタルへの転換に失敗したことだと言われています。しかし、コダックはデジタルカメラで充分なシェアを獲得し、デジタル印刷にも乗り出していたとのことです。アドナーさんは、同社の戦略の何が間違いで、“誤ったゲーム”を戦ってしまった理由はどこにあるとお考えですか?

アドナーコダックの倒産のストーリーは、テクノロジーの転換の失敗による倒産の事例として頻繁に語られています。よくある解釈は、「コダックは写真会社として成功を収め、70年代にデジタル写真を発明した。しかし、化学印刷で多額の収益を得ていたこと、および富士フイルムのような既存のライバルに意識を向けていたことが原因で、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に失敗し倒産した」というものです。このストーリーは、意思決定が遅い巨大組織の顛末として、経営者や役員に警告し、鼓舞するために語られています。

しかし、この解釈は100%間違いです。

コダックは1990年代、ヒューレット・パッカードやレックスマークがデジタル印刷で紙とインクを販売し大儲けしていることに気づき、その後10年間で、デジタル写真のリーダーになるべく変革を遂げました。デジタルカメラの売り上げは全米でナンバーワン、インクジェットプリンターは世界4位の売り上げを達成しています。それがなぜ“誤ったゲーム”だったのか考察しましょう。

従来の写真には、カメラ、フィルム、現像液、現像所といったさまざまな技術が必要でした。新しいゲームでは、CCD(電荷結合素子)センサー、メモリーカード、インクカートリッジ、デジタルプリンターを使用するようになりました。この変革のために、コダックは大事業を成し遂げ、思い出を画像で記録して共有する『コダック・モーメント』という価値提案をおこなったのです。ユーザーは、デジタルファイルを電子メールで家族や知人に送り、それぞれがプリンターで写真を印刷し、紙とインクにお金をかけました。

次の転換点は、撮影方法の変化です。カメラは小型化、低コスト、高品質を実現し、ユーザーはそれをポケットに入れて持ち運びどんどん撮影し、どんどん印刷するので、企業は紙とインクの販売でさらに稼ぐことができました。

しかし、次に興味深いことが起きます。高画質で大きなスクリーン、より多くのメモリを搭載したスマートフォンの登場です。スクリーンで見る画像は、プリンターで印刷するのと同レベルの高画質を実現。特定の領域内の技術変革ではなく、別の領域に影響を与える横軸の変革が起きたのです。もちろん、スマートフォンがプリンター代わりになることはないでしょう。しかし、スマートフォンが写真の鑑賞方法に影響を与え、紙を必要としなくなれば、プリンター市場にも、写真の共有方法にも影響を与えます。この力学が、これまでとは異なるディスラプション(破壊)を引き起こすのです。

コダックは、プリント市場で世界一を目指すゲームにおいては、勝利の寸前まで登り詰めました。しかし、これは“誤ったゲーム”でした。「ユーザーが印刷しなくなる」という横軸の変化に気づかなかったのです。これはコダックに限らず、ヒューレット・パッカードもレックスマークも、印刷に賭けていた誰もが同様の打撃を受けました。変革が一つの領域にとどまることのないエコシステムにおいて、どう戦略を立てるべきか。これこそ、私が伝えたいことなのです。

山口ビジネスにおいて、エコシステムの定義は曖昧であり、漠然と「各社が連携して製品やサービスを生み出すシステム」と定義されることもあります。しかし、正しいゲームに勝つためには、エコシステムを正確に理解し、製品やサービスではなく、顧客体験の観点から考える必要があるということですね。

2.顧客価値リ・インベンション戦略

山口私たちもデジタル変革は、顧客の真の課題をデジタルで解決することが重要だと考えています。ここで、NTTデータが考えるDXのフレームワーク「顧客価値リ・インベンション戦略」について紹介させてください。

顧客が本当に望んでいることを起点に自社の提供価値を再定義するところからスタートします。その上で、デジタル技術を活用したサービスやビジネスを企画し、顧客の真の課題解決を支援する戦略です。顧客接点を単独でデジタル化するのではなく、一連のカスタマージャーニーの中で顧客価値を提供するためにキーとなるサービスを明確にし、その実現のためにデジタル技術を活用して一連の顧客接点を統合した新たなジャーニーを再設計するのです。このスライドでは自動車保険の例を示していますが、私どものフレームワークでコダックの事例を分析すると、写真を撮ることの真の目的は、友達や家族と写真を見て楽しむことになるため、この領域のデジタル化を考えることが必須となります。

顧客の真の課題解決を実現するためのパートナーシップの在り方も、デジタル技術の進化とともに変わってきました。デジタル技術の進化は取引コストを削減し、新しいパートナーと新しいサービスを提供することを簡単にしています。例えば、製造業とのパートナー関係においても、固定された取引システムではなく、市場を通じて柔軟なバリューチェーンを実現できるようになりました。

3.エコシステム・ディスラプション

山口私たちのフレームワークは、アドナ―さんの考え方とよく似ており、書籍の中で書かれている「エコシステム構築の戦略」も、前述のデジタル技術の進化によるパートナーシップの高度化と同じ考え方だと思います。
アドナーさんは、エコシステムについて「パートナーが連携して、エンドユーザーへの価値提案をおこなう構造」と定義していますが、詳しくご説明いただけますか。

アドナー近年、頻繁に「エコシステム」という言葉を耳にしますが、この言葉を有効にするには、構造を明確にする必要があります。「ソニーのエコシステム」「アップルのエコシステム」など、エコシステムの中心に一企業を据えると、この定義の重要な点、つまり、パートナーが相互作用する構造だということを見落としがちです。構造レベルまで理解し戦略を立てることで、より豊かな価値提案をおこなうことができるのです。

山口アドナーさんは更にエコシステム内の力関係の変化について、こう述べています。「エコシステム・ディスラプションにおける脅威は、協力的なパートナーが“非常に優秀な”存在となり、既存企業が持つ価値創造の基盤を破壊し、パイそのものを崩壊させるというものである」と。

補完財を提供しているパートナーが、競合財を提供するライバルになるメカニズムについて教えていただけますか。

アドナー従来の競争には2つのパターンがありました。一つは、自社と類似の方法で、類似の仕事をする企業がいる場合で、その企業はライバルと呼ばれます。もう一つは、自社の仕事を、異なる技術でおこなう企業が参入してくる場合。これは代替財と呼ばれます。

ライバルや代替財の登場は、一瞬で悪いニュースだと気づきますが、コダックのストーリーが興味深いのは、他社が優れたプリンターや安いインクを作ったわけでもないのに、ディスラプションが起きたことです。カメラが良くなるのは縦軸の変化であり、プリンターメーカーにとっては良いニュースだったのです。しかし、カメラにスクリーンがついたことで、横軸に影響が与えられました。優秀になりすぎたパートナーが一線を越えると、私たちが普段考えているものとは全く異なるディスラプションが起きるのです。

山口では、エコシステムのパートナーが将来的にライバルになる可能性が見えたときは、どうするべきでしょうか?そのライバルをM&Aしてマーケットに残るべきでしょうか。それとも、既存のノウハウを活かして新たなマーケットへ出る戦略がよいでしょうか。

富士フイルムは、フィルムで培った化学技術を用いて医薬品や化粧品マーケットで事業展開して成功し、現在フィルムの売上げは5%以下とも聞いています。

アドナーまずは、自社のエコシステムがどのような形で破壊されているのか理解する必要があります。富士フイルムは現状を見て、「このゲームには参戦しない」と決断し、自社の強みを見極め、化粧品と医薬品というマーケットを見つけたのです。

レックスマークの事例もあります。印刷会社だった同社は、ユーザーの印刷離れを見て、2008年にある決断をしました。ソフトウェア会社を買収し、プリンターとスキャナーの実績を活かして、文書管理会社に変身したのです。ディスラプションに直面した際、どのような答えを出すかは、その企業が何者であるかを突き詰めた結果によるのです。

山口答えは1つではなく、企業として、どのような技術を蓄積してきたかによるということですね。

4.エコシステム構築の原則

山口技術の進展によって、エコシステム内のパートナーにリーダーの座を取って代わられるという分析は、大変示唆に富むものです。エコシステムのリーダーは、エコシステムを構築し成長させ続けるためには、どうすればよいのでしょうか。

アドナーエコシステム構築の3原則を紹介します。

まずは、最低限の要素によるエコシステム(MVE:Minimum Viable Ecosystem)からスタートします。最終目的地である「豊かな価値提案」に向かう一歩は、最小単位の連携がよいのです。この連携は、未来のパートナーを惹きつける要素となります。

2つ目が、段階的拡張です。2番手、3番手のパートナーを迎えます。3つ目が、最初に構築したMVEを、第二のエコシステム構築につなげる「エコシステムの継承」です。これら3原則をベースにすると、効率的にエコシステム構築の旅ができます。

山口エコシステムの力学をよく理解するには、価値構造の理解が重要だと仰っていますが、価値構造の考え方についても、ご説明いただけますか。

アドナー私の最初の著書『ワイドレンズ』は、ワイドレンズ、つまりレンズを広げるというのは、パートナーとの共同イノベーションについて考えるということ。しかしワイドレンズでは、エコシステム・ディスラプション、つまりコダックに何が起きたのかを説明できませんでした。それを理解するために必要なのが、価値構造という考え方です。価値構造を明らかにすることができれば、環境変化が起きた際に、縦軸と横軸の各要素への影響を特定できます。そして、このクロスボックスの力学こそが、エコシステム・ディスラプションを理解する鍵なのです。

山口価値構造を理解しないで、既存の顧客接点だけをデジタル化することを考えると、誤ったゲームを行うことになるということですね。

5.リーダーに求められるマインドセット

山口アドナーさんは、エコシステム構築と運営において、リーダーが誤ったマインドを持つと失敗すると述べておられます。エコシステムにおいてリーダーが求められるマインドとは、どのようなものでしょうか。

アドナーすばらしい質問ですね。エコシステムというのはパートナーを揃えることと捉えたときに、重要となるのは「連携」です。

従来のリーダーには、自社の価値の収益化や効率化を重視するマインドが必要だったかもしれません。一方、エコシステム構築で求められるのは、連携を優先し、パートナーに自信と安心感を与え、かつ自社の価値も確保できるリーダーです。これら2種のリーダーシップは拮抗し、求められる能力は異なります。エコシステム構築に成功するためには、リーダーが自分の哲学を変える必要があるでしょう。

山口「組織と産業が成熟すると、価値要素について考えなくなってしまう。企業の目標を株主最優先から、より広範囲の価値創造へ向け続ける必要がある」というアドナーさんの見解に共感します。だからこそ、会社の目的と使命に基づき、新たな価値を創造する「学習する組織」を作る必要があると考えています。

6.社会課題解決への応用

山口最後の質問です。社会課題の解決においても、公共セクターと民間セクターも含めたエコシステムの構築が有効だと思いますが、いかがでしょうか。

アドナーその通りだと思います。新型コロナウイルスの例がわかりやすいですね。従来、ウイルスの問題は医療・ヘルスケア領域ですが、新型コロナウイルスは領域を越え、経済、貿易など、社会のあらゆる機能に影響を及ぼしました。エコシステム・ディスラプションの概念で取り組む必要があります。唯一の策は、企業が非営利団体や政府などと横断して連携する、新しい方法を見つけることです。

山口顧客への価値提供を起点としたエコシステムの考えが、社会課題の解決にも役立つという話は嬉しいですね。当社の一例ですが、自然災害の多い日本において自治体や他企業と連携して災害対策をするサービス『D-Resilio』に取り組んでいます。

アドナーあなたが説明した『D-Resilio』の例は、私たちが話したことを実現している良い事例ですね。これは日本の社会に焦点を当てたものだと思いますが、より広い世界にこのような効果的なコラボレーションを広げていってもらいたいと思います。

山口エコシステムの概念が、社会課題の解決にも有用だとうかがい、勇気づけられました。本日はありがとうございました。

以上

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山口 重樹

株式会社NTTデータ 副社長
山口 重樹

ロン・アドナー

ダートマス大学タックビジネススクール教授
ロン・アドナー

1993年クーパーユニオン大学工学部卒業後、98年ペンシルバニア大学ウォートンスクールにてPh.D.取得。INSEAD(欧州経営大学院)准教授などを経て、2012年より現職。ストラテジー・インサイト・グループの創業者兼CEOでもあり、スタートアップからフォーチュン500企業まで、戦略コンサルティングを行う。主な著書にThe Wide Lens: What Successful Innovators See That Others Miss(邦題『ワイドレンズ』)のほか、Harvard Business Review、Forbes、Financial Timesなどへの寄稿も多数。Academy of Management Review、Management Scienceなどの編集委員も務める。