地域金融機関向けに営業活動・融資業務を支援する融資業務AIサービスの実用検討を金融機関と実施

マイナス金利や顧客ターゲットとなる人口の減少が続く中、地域金融機関が本業である資金利益を創出するためには効率的・効果的な営業活動や融資審査の高度化が欠かせません。NTTデータでは、地域金融機関向けの基幹システムを手掛けてきた知見と最新技術を融合させた融資業務AIサービスの検討を進めています。

地域金融機関向けAIサービスの現状

地域金融機関においては、多様な顧客ニーズに対応して効率的・効果的な営業活動、審査の高度化を支援展開すべく、人工知能(AI)を用いた各種ソリューションの導入が検討されるようになってきています。

しかしながら、

  • AIの特性として、AIが特定の結論に達した理由が不明、再現性が担保されず精度保証ができないため、適切な業務活用や投資対効果の測定ができない
  • AIモデル初期構築には試行錯誤が必要であり、運用開始後も再学習を続けていく必要がありコスト高になる
  • 金融機関の顧客データを活用する場合、セキュリティ担保が必要であり安全対策基準(FISC)に沿った構築にコストがかかる

などの課題に直面し、業務での活用が実現されている例はあまり多くはありません。

顧客はデータのアップロードのみで予測結果を得られる

開発を進めているAI分析基盤・AI自動化プログラムは、これらの課題を解決し、迅速に、安価に、安全に導入できるものとなっています。

金融機関は、自分たちの持つデータをクラウドセンターにアップロードするだけで、AIモデルによってスコア化された顧客ごとの資金ニーズなどの予測が得られ、訪問先の選択などの営業活動に活用することができます。(図1)

システムの構築や運用に関するスキルとノウハウを内部に持つ必要がなく、迅速かつ安価な導入と、着実な運用が可能です。

図1:サービス提供プロセス(案)

図1:サービス提供プロセス(案)

パブリッククラウド上の共通基盤に個々のモデルを構築

信用金庫や信用組合などの地域金融機関で単独で基盤やAIモデルを構築するのは負担が大きくなります。また、分析するための情報も業態によっては、収集しているデータ構造に差異があり、同じ業態内でデータ構造が同じでも個別金融機関によって中身の情報には差異があるため、個別事情に応じたモデルを構築していく必要があります。そこで、パブリッククラウド上に安全対策基準(FISC)に準拠したセキュアなAI分析プラットフォームを構築(社内開発した「A-gate®」※1を活用)し、業態や個々の金融機関に応じたAIモデルを「安く」「早く」「高精度なAIモデル」の実現を検討していくこととしました。

現在サービスメニューとして検討しているのは資金ニーズ予測AI、顧客ターゲティングAIと融資審査支援AIで、それぞれ実現できる効果には以下のようなものがあります。

資金ニーズ予測AIと顧客ターゲティングAI:法人・個人向けにいつ、どのお客様に資金ニーズがあるかを予測

  • 潜在的な顧客ニーズの掘り起こしによる収益向上
  • 訪問リスト作成の効率化によるコスト削減
  • 資金ニーズを可視化し訪問先選択判断のノウハウを見える化
  • 顧客ニーズ予測に基づいた営業活動の実践による顧客満足度の向上

融資審査支援AI:融資審査実績から新たな融資審査の判断を支援

  • 審査の高度化による融資対象の拡大・収益の向上
  • 審査業務に定量基準が組み込まれることで審査コストが削減
  • 審査対象企業の問題点が明確になり事業性評価が可視化
図2:融資業務AIサービス全体像

図2:融資業務AIサービス全体像

最新技術と業務ノウハウを融合

この基盤開発とモデル構築には、NTTデータグループの知見と技術力を総動員しています。基盤自体は顧客に直接価値を生み出すものではないため、AWS(Amazon Web Services)のマネージドサービスを活用することとし、顧客ニーズをいち早く実現することを目指しました。

MLops※2を構築し高速で試行錯誤する仕組みの構築によりAIモデルの再現性を高めることに加え、業務ノウハウを組み合わせることにより、適切な業務活用や投資対効果の測定を可能としています。また、AI が特定の結論に達した理由を説明可能にすることで、業務活用を促進しています。

このように、最新技術を活用することにより顧客にとって、安く、早く、精度が高いAIサービスを実現するだけでなく、業務に活用できるAIサービスの実現を目指しています。

地域金融機関向け融資業務をデータ活用で高度化を目指す

今後はさらなるメニューの拡充を目指しています。営業活動であれば、訪問計画の策定や折衝記録の作成、融資に関わる稟議作成支援や顧客の業況検知モニタリングなど、一連の営業活動や融資業務の効率化・高度化につながるサービスを検討しています。

また、現在は信用金庫業態、信用組合業態向けに提供したいと考えているが、将来的にはJA業態、地方銀行等も含め、地域金融機関全体に向けたソリューションとしての展開をしたいと考えています。これまで培ってきた知見とお客様との信頼関係をベースに、最新の技術動向を取り入れて、地域金融機関の発展に貢献していきます。

  • ※1 A-gateとは
    パブリッククラウドのセキュアな利用を導入から運用まで一元的に支援するNTTデータのサービス
  • ※2 MLOpsとは
    継続的インテグレーション、モデル開発、デプロイ、品質向上施策等を高速、最適化、自動化する仕組み